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横浜地方裁判所 昭和50年(行ウ)2号 判決

原告 井坂勝哉 外二名

被告 横須賀市長

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、アメリカ合衆国海軍が占有する横須賀市稲岡町内の土地に四棟、同市長井町内の土地に五棟存在する個人所有の建物の各所有者に対し固定資産税の賦課徴収を怠つている事実の違法を確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはいずれも横須賀市に在住する市民であつて、昭和四九年一〇月三一日、地方自治法二四二条一項に基づき横須賀市監査委員に対し、請求の趣旨記載の怠る事実について、被告に是正勧告をするよう監査請求したところ、同監査委員は、同年一二月二五日勧告を行なわない旨決定し、原告らに通知した。

2  アメリカ合衆国が海軍施設として占有する横須賀市稲岡町内の土地に四棟、同じく住宅施設として占有する同市長井町内の土地に五棟、それぞれ個人所有の家屋が昭和四八年以前から存在する。

3(一)  地方税法は、「固定資産税は、固定資産に対し、当該固定資産所在の市町村において課する」ものとし(同法三四二条一項)、固定資産の所有者に固定資産税を課するとしている(同法三四三条一項)。そして、「固定資産」は、土地、家屋及び償却資産の総称であり、「家屋」は、住家、店舗、工場(発電所及び変電所を含む。)、倉庫その他の建物をいうとされている(同法三四一条一号、三号)。

(二)  右固定資産税は、特に免除事由が法定されていない限り、同税の賦課を免れることはできないものであるところ、同法において非課税とされる場合は、三四八条に限定されている。

(三)  なお、アメリカ合衆国軍隊及び軍属等に対する日本国の課税権の制限についてみれば、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「地位協定」という。)において、(1)合衆国軍隊は、日本国において保有し、使用し、又は移転する財産について租税又は類似の公課を課されず(一三条一項)、(2)合衆国軍隊の構成員及び軍属等は、合衆国軍隊等から受ける所得について、日本政府又は日本国にあるその他の課税権者に日本の租税を納付する義務を負わず(同条二項)、(3)合衆国軍隊の構成員及び軍属等は、一時的に日本国にあることのみに基づいて日本国に所在する有体又は無体の動産の保有、使用、これらの者相互の移転等についての日本国における租税を免除される。ただし、この免除は、投資若しくは事業を行なうため日本国において保有される財産又は日本国において登録された無体財産には適用しない。この条の規定は、私有車両による道路の使用について納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない(同条三項)旨規定されている。しかしながら、個人所有の不動産については何ら免除の規定はない。

また、右地位協定を実施するため制定された各種の国内法のうち、地方税法に関しては、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う地方税法の臨時特例に関する法律」(昭和二七年法律第一一九号。以下「特例法」という。)が制定され、右特例法は、地位協定の内容を受けて、さらに具体的に合衆国軍隊、その構成員、軍属等について免除されるべき租税の種類を明示しているが、個人所有の不動産については全く触れず、免除の対象としないことを明らかにしている。

4  右2の九棟の家屋(以下「本件家屋」という。)は、地方税法にいう固定資産(家屋)であり、同法三四八条及び特例法による非課税事由は何ら存在しないのであるから、横須賀市において賦課する固定資産税の課税対象となることは明らかである。

5  そして、本件家屋は、不動産登記法に基づく登記がなされていないのであるから、被告は、本件家屋について地方税法三五三条の定める物件調査の権限に基づいて調査のうえ、家屋補充課税台帳にそれらの所有者の住所、氏名並びにその所在、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならず(同法三八一条四項)、また家屋補充課税台帳に所有者として登録された者が所有者として固定資産税の納税義務を負担することになつており(同法三四三条一項、二項)、被告は、法律上の免除事由がない限り何らの理由をもつてしても特定の建物について家屋補充課税台帳への登録を免れさせ、ひいては固定資産税の納税義務を免れさせる裁量権を有しない。

6  しかるに、被告は、本件家屋について、同法三八一条四項に定める事項を家屋補充課税台帳に登録せず、本件家屋について固定資産税を賦課徴収していない。

7  よつて、原告らは、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき、被告が本件家屋について固定資産税の賦課徴収を怠つている事実の違法確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、本件家屋が個人所有であることは否認し、その余の事実は認める。

本件家屋は、個人所有に属するものではなく、アメリカ合衆国軍隊の所有に属するものである。

3  同3の事実は認める。

4  同4のうち、本件家屋が地方税法にいう固定資産(家屋)であることは認め、その余の主張は争う。

5  同5のうち、本件家屋につき不動産登記法に基づく登記がなされていないことは認める。

6  同6の事実は認める。

7  同7の主張は争う。

三  被告の主張

仮に、原告ら主張のように、本件家屋の全部又は一部がアメリカ合衆国軍隊の所有に属しないものであり、固定資産税を賦課徴収すべきものであるとしても、次のとおり、被告が税の賦課徴収を違法に「怠つている」ものということはできない。すなわち、

1  家屋補充課税台帳に登録すべき事項は、所有者の住所、氏名又は名称並びにその所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格であり(地方税法三八一条四項)、しかも、同法四〇八条により、市町村長は毎年少なくとも一回実地調査をしなければならないのである。

2  ところで、地位協定三条により、アメリカ合衆国は日本国内において使用を許された施設及び区域について、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置をとることができるとされているのであるから、本件家屋の存する横須賀市稲岡町内及び同市長井町内のアメリカ合衆国海軍施設において地方税法三五三条に規定する質問検査をするには、右施設管理者たる基地司令官の許可(承諾)を要し、右許可がなければ調査のため立入ることができないと解される。

3  被告は、昭和四九年六月二八日付でアメリカ合衆国海軍横須賀基地司令官に対し、本件家屋が地方税法に定める固定資産であるか否か、所有関係がどのようになつているかを調査するため、横須賀市職員が横須賀基地(横須賀市稲岡町所在、以下同じ。)及び長井住宅地区に立入り調査することの許可を求めたが、同司令官は同年七月一五日付書面により右申出を拒絶した。そのため、被告は適法に実地調査をすることができないし、本件家屋につき前記登録事項を知ることもできない。

4  ところで、原告らが本訴で求めているのは怠る事実の違法確認であるが、怠る事実が違法であるというためには、被告がなし得ることをなさないでおり、かつなさないことが違法であることを意味する。若し原告らの本件訴が認容されれば、被告は判決の拘束力により右認容判決の趣旨に従つて行動すべく義務付けられ、不可能を強いられることになるのである。

被告は、前述のように、なそうとしてもなし得ないのであるから、仮に、本件家屋が原告ら主張のように個人所有であつたとしても、被告がこれを家屋補充課税台帳に登録しないことひいては固定資産税の賦課徴収をしないことを以つて「怠つている」ということはできない。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

(認否)

1 被告の主張1は認める。

2 同2の主張は争う。

3 同3の事実は不知。

4 同4の主張は争う。

(反論)

1 地方自治法二四二条の二に基づく「怠る事実の違法確認訴訟」は、住民が当該地方公共団体の構成員としての公的立場から、行政の違法不公正を是正することを目的とした特殊な訴訟であり、右にいう「違法に公金の賦課徴収を怠る事実」とは、例えば法律若しくは条例上の根拠なくして特定の者の課税を免除すること等をいうのである。すなわち、「違法」とは課税の減免に法律若しくは条例上の根拠がないことであり、「賦課徴収を怠る」とは法律若しくは条例上の根拠なしに賦課徴収をしないことをいうのである。そして、右怠る事実の違法確認訴訟は、地方公共団体の長が法律上の根拠なしに公金の賦課徴収をしていないという事実が存在するときは、地方公共団体の長の故意、過失若しくは無過失を問わず、またその主観的意図にかかわりなくこれを是正するため認められた特殊な訴訟である。

従つて、本件訴訟においては、被告が個人所有に係る本件家屋について固定資産税を賦課しないことが法律上の根拠を有するかどうかが問題なのであつて、賦課しないことについて「故意又は過失」若しくは「責に帰すべき事由」といつた民事法上の責任概念は問題にならないものである。すなわち、相手方や第三者が非課税を主張して、その賦課を妨害している場合でも、相当期間経過しても是正されなければ地方自治法二四二条の住民監査請求及び同法二四二条の二の住民訴訟の各規定による「怠る事実」に該当することに変りがない。けだし、右規定は、行政の違法是正に主眼があるのであつて、市長や職員の怠惰をいましめることに主眼があるのではないからである。

2 仮に、被告主張のような調査不能等の事由により、賦課徴収しないことの違法が阻却される場合があるとしても、被告はいまだ十分に調査を尽したとはいえず、違法性が阻却される場合に該当しない。

(一) 地方税法三五三条一項は、「市町村の徴税吏員、固定資産評価員又は固定資産評価補助員は、固定資産税の賦課徴収に関する調査のために必要がある場合においては、左に掲げる者に質問し、……帳簿書類その他の物件を検査することができる」と規定し、右質問調査権は「当該固定資産税の賦課徴収に関し直接関係があると認められる者」にも及ぶと規定している。

(二) ところで、本訴において、被告は、アメリカ合衆国が海軍施設として占有する横須賀市稲岡町内の土地に四棟、同市長井町内の土地に五棟、いずれも居住用に使われており、かつ所有形態において個人所有とも考えられる設備の存在することを認めていた。この事実は、基地内にある多数の建物の内、他と区別される所有形態を有する九棟の居住用設備の存在を被告が知つていることを意味する。そして、この認識は、単に建物の外観を見ただけのものではなく、所有形態という抽象的な認識を内容とするもので、被告の直接の調査ではないとしても、内容的に相当詳細な調査の存在を推定することができる。

しかも、昭和四八年九月二一日から同年一〇月一一日までの間に開かれた横須賀市議会本会議において、横須賀市の税務部長は、「(個人が)自己資本によつて軍の許可を得て、建築した建物が存在すること、現在のところトレーラーハウスは存在せず、プライベートハウスが九棟であること、税額は概算で年間一八万円であること」等を答弁で明らかにし、さらに「課税をしてもよいという自治省回答もあるので、色々研究を重ね、県や自治省へ照会したところ、日米間において若干の相異があるということで現在検討中であるから課税については少し待つてほしいということで現在に至つている。」旨答弁しているのである。

右のように、被告は、アメリカ合衆国軍隊に提供する施設を管理する官庁を通じて、本件家屋を把握してきたのであり、またそれが可能なのである。

(三) 従つて、被告は、地方税法上の質問検査権を基地内において直接行使できないとすれば、日本に駐留するアメリカ合衆国軍隊に提供する施設については、日本国政府がその使用の実状を把握しており、当該建物の敷地の所有者であり、かつ施設の提供者としての日本国政府(具体的には防衛施設庁)に対し、調査権を行使して本件家屋を地方税法所定の家屋補充課税台帳に登録すべきである。

また、日米合同委員会合意事項の通知に伴う昭和五〇年四月二日付自治省税務局固定資産税課長の神奈川県総務部長あて書簡によると、基地内所在のトレーラーハウスに課税しないことを決定したことに伴い、昭和五〇年度から、これらの建物は、施設等所在市町村調整交付金交付要綱(昭和四五年一一月六日自治省告示第二二四号。以下「交付要綱」という。)二条二号に規定する「米軍資産」として同四条一号により配分する額の算定基礎に加えることになるというのであるが、これが本件家屋に適用されたとすれば、右四条一号によると調整交付金の額は、当該年の三月三一日現在において所在する米軍資産の価格を基礎として自治大臣が配分するのであるから、本件家屋の実体についても、その価格を含めて被告は知つていなければならない。

しかるに、被告は、右調整交付金の算定のための基礎資料の存する自治省など関係官庁に対し調査権を行使すべきであるのに、いまだに調査していない。

以上のように、被告はいまだ調査をつくしたとはいえない。なお付言すれば、長井住宅地区については、施設内の道路に立入ることは可能であり、一般市民が本件家屋につき写真の撮影もしており、その一部については居住者の氏名も明らかにしているのであり、一般市民にこれだけのことがなし得るのであるから、被告は知らない筈はなく、知らないとすれば、調査を懈怠していることは明白である。

3(一) なお、本訴の提起後である昭和五〇年三月三一日、自治省税務局長は、米軍基地内に所在するいわゆるトレーラーハウスに対する固定資産税等について、日米合同委員会で課税することができない旨合意したから、課税しないようにされたい旨の地方自治体に対する行政指導を行なつた。

(二) ところで、地位協定の実施に関して相互間の協議を必要とするすべての事項に関する日本国政府と合衆国政府との間の協議機関として同協定二五条一項に基づき設置された日米合同委員会は、地位協定実施に関する外交事務について日米両政府の折衝の便宜のために常置されたもので、その任務はあくまでも同協定実施に関する事務折衝であり、同協定に明示されていない米軍若しくは米国民の新らたな特権を決定したり、わが国の法律を解釈し又は改廃したりする権限を有しないし、わが国の法律の適用除外について国内法的効力を有するいかなる合意もなし得ないものである。すなわち、日米合同委員会は、地方税法、特例法の解釈適用について、わが国の地方行政を指導するいかなる権限もなく、まして同委員会の合意事項が超法規的にわが国の地方行政を拘束することもあり得ない。行政は法に基づいて行なわれるものであり、法の適用は公正でなければならず、法律に基づかないいかなる特権も認められない。

従つて、仮に米軍が米軍基地内に所在する個人所有建物について地方税法の適用を拒否し、日米合同委員会において日本政府代表がこれに同意したとしても、その合意は国内法としての拘束力を有するものではないし、その合意が国内法と矛盾する場合は、地方自治体の行政との関係においては国内法が優先することは明らかである。

(三) 右(一)の日米合同委員会の合意事項は、個人所有のトレーラーハウスに関する免税の合意であり、本件とは事案を異にしているものと思われるが、仮にそれが基地内の個人所有建物一般に関するものだとしても、地位協定の実施に伴う国内法的措置がとられない限り、裁判所はもちろん地方公共団体を拘束する法的効力はない。

そして、法による行政は民主的行政の根幹であり、地方公共団体の執行機関はその行政を法律及び条例に基づいて執行しなければならないものであつて、仮に日米合同委員会の合意を根拠に非課税の行政指導がなされたとしても、明らかに地方税法及び特例法に違反する指導に対しては、地方公共団体の長は従う義務はなく、これに従うことは許されない。

(四) しかるに、被告は、右(一)の指導に従い、横須賀市における米軍施設内の個人所有建物について固定資産税を賦課されないものとして、昭和五〇年以降交付要綱二条二号に規定する米軍資産とみなして交付金算定基礎に加えられたものとして扱つているのであるから、被告が法律上の根拠なく固定資産税を賦課していないことは明らかである。

五  原告らの反論に対する被告の主張

原告らの反論は争う。

なお、原告らは、自治省に調整交付金の算定のための基礎資料が存在しているから、被告は質問調査権に基づき調査すべきであるというが、裁判所の送付嘱託にさえ応じない自治省が被告に資料を開示しないであろうことは明らかというべきである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1、3及び6の事実、同2のうち本件家屋が個人所有であるとの点を除くその余の事実、本件家屋が地方税法にいう固定資産(家屋)であり、本件家屋につき不動産登記法に基づく登記がなされていない事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、固定資産税は、原則として、固定資産所在の市町村に賦課徴収権があり(地方税法三四二条一項、なお、七三四条一項)、固定資産の所有者に対し課税するものとされている(同法三四三条一項)。そして、市町村は、固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため、固定資産課税台帳を備えるものとされ(同法三八〇条一項)、建物登記簿に登記されている家屋以外の家屋で同法の規定によつて固定資産税を課することができるものについては、市町村長は、家屋補充課税台帳に、自治省令で定める様式によつて、その所有者の住所及び氏名又は名称並びにその所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格を登録しなければならないとされている(同法三八一条四項)。また、右手続として、市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならず(同法四〇八条)、固定資産評価員は、右実地調査の結果に基づいて当該市町村に所在する土地又は家屋の評価をした場合には、遅滞なく、評価調書を作成して市町村長に提出し(同法四〇九条一項)、評価調書を受理した市町村長は、これに基づいて固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定し、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならない(同法四一〇条、四一一条一項)とされている。

かように、市町村は、固定資産税を賦課徴収しうるものであるが、固定資産税の賦課徴収は市町村が優越的な地位に基づく権力主体として行なうところの行政処分であるから、課税主体たる市町村は、その賦課徴収にあたり、課税客体である固定資産について、その状況、所有者、評価額等必要事項を調査し、課税要件事実を確定したうえで賦課徴収すべきものであることは言うまでもなく、課税要件事実を十分把握することなく課税することは厳に慎まねばならないところである。その反面、市町村は、右調査により課税要件が充足されていると認定される場合に、法令又は条例により、非課税とされている場合(地方税法三四八条、特例法三条など)又は固定資産税の減免が認められる場合(地方税法三六七条参照)を除いて、その裁量により非課税としたり、固定資産税を減免したりすることは、これまた許されないところである。

三  原告らは、「個人所有であつて、法律上課税すべき本件家屋に対し、被告は固定資産税を賦課徴収していないのであるから、被告の所為は、被告の故意、過失又は責に帰すべき事由の有無を問うまでもなく、それ自体で違法に賦課徴収を怠つている場合に該当する。」旨主張するので、まず右主張の当否について検討する。

地方自治法二四二条の二第一項三号に規定する公金の賦課徴収を怠る事実の違法確認訴訟は、同法二四二条一項所定の地方公共団体の執行機関又は職員による違法な公金の賦課徴収の懈怠という財務会計上の怠る事実を確認することによつて、地方財務行政の違法な不作為(懈怠)を是正することを目的としたものであるが、右公金の賦課徴収を「違法に怠る」とは、当該執行機関又は職員において、公金の賦課徴収をなすべきであり、かつ、その職務権限を適正に行使すれば公金の賦課徴収をなしうるにもかかわらず、それをしないことをいうものと解するのが相当である。

これを固定資産税の賦課徴収についてみれば、当該執行機関又は職員がその職務権限を適正に行使すれば、課税客体たる固定資産の所有者に対し固定資産税の賦課徴収をしうるにもかかわらず、故意に又は過失によりその賦課徴収をしない場合はもとより、法令の解釈適用を誤まり、課税し得ないものと解し、賦課徴収をしていない場合も、違法に公金の賦課徴収を怠る場合にあたるということができる。しかし、課税客体たる固定資産の存在が認定されうる場合であつても、当該執行機関又は職員がその職務権限を適正に行使しても、なお課税要件事実を把握することができず、そのため固定資産税の賦課徴収をすることができない場合には、仮令、それが可能なかぎりの調査の結果によつて当該固定資産自体については所定の非課税事由に該当する事実があるとは認められないような場合であつても、違法に公金の賦課徴収を怠つている場合には該らないというべきである。

従つて、右のような場合にも、なお怠る事実の違法確認訴訟の対象となしうるとする原告らの主張は、採用し得ない。

四  そこで、被告が本件家屋に対して固定資産税の賦課徴収を違法に怠つているか否かについて判断する。

1  いずれもその成立に争いのない甲第一号証の一、二、第二ないし第四号証、第六号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし三、原告ら主張のとおりの写真であることに争いのない甲第五号証の一ないし九、証人石田由松、同野村栄二郎の各証言に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(一)  三沢市がアメリカ合衆国の軍人軍属に対し住民税を、また基地内に所在するいわゆるトレーラーハウスに対し固定資産税を課税することが昭和四八年九月三日付読売新聞により報道され、これに関連して、昭和四八年九月二一日から同年一〇月一一日までの間に開催された横須賀市議会(昭和四八年第三回定例会)において、横須賀市における軍人軍属に対する同様の課税問題が取り上げられた。

市議会本会議における質問に対して、市税務部長が被告に代り、専門的立場から横須賀市の場合について答弁し、横須賀市にある米軍基地内には、いわゆるトレーラーハウス(土地に定着していない家屋)はなく、軍の許可を得て自己資金によつて建設したプライベートハウスが九棟あること、これに対する課税については、「アメリカ合衆国軍隊の構成員が所有する住宅で基地内に所在する住宅に対する課税上の疑義について」なされた昭和四〇年二月一九日付自治固第二四号青森県総務部長あて自治省固定資産税課長回答(以下「四〇年回答」という。)によれば、課税をして差し支えないとされていることもあつて、従来からいろいろ研究を重ねており、特にこの件については、県あるいは自治省に照会をしたところ、日米間において若干の意見の相違があり、地位協定二五条による日米合同委員会において現在協議中であるから、課税についてはもう少し待つてほしいということで、その結論を待つて対処したいと考えていること、なお九棟あるプライベートハウスの固定資産税総額を試算すると年税額で約一八万円となること、また、課税するにしても、課税客体が基地内にあるということで非常に困難が伴うと思われるが、いずれにしても自治省、県などと協議をして課税をするという前向きの姿勢で将来も検討を続けていきたいと考えていることなどを明らかにした。

なお、青森県総務部長あての四〇年回答の内容は、「本県三沢市に所在するアメリカ合衆国軍隊の基地内に、アメリカ合衆国軍隊の軍人、軍属及びその家族の個人所有に係る家屋(通称トレーラーハウス)が約二二〇棟建築されている。当該家屋は、当該軍人、軍属及びその家族と建築業者が直接契約のうえで建築し、建築資金も個人支出になつており、維持管理についても電気、水道料金、修繕費等すべて当該軍人、軍属及びその家族負担である。また、帰国、転勤等による当該家屋の売買は、当事者間の責任で行なわれており、基地交付金の対象資産からも除かれている。以上の実態から当該家屋は、特例法三条に掲げられている合衆国軍隊が日本国において所有する固定資産に該当しないものと解し、固定資産税を課税して差し支えないか。」との問に対し、その回答として「お見込みのとおり取り扱つて差し支えないものと解する。」とするものであつた。

(二)  横須賀市税務部では、右新聞報道があつてから、横須賀市に所在する米軍基地内にも三沢市と同様の建物があるのではないかと考え、その調査をし、その結果に基づいて税務部長が市議会において前記内容の答弁をしたものであるが、その経過は次のとおりであつた。

まず、税務部長は当時横須賀市において米軍基地問題を担当していた企画部基地対策課に照会し、右企画部がさらに横須賀防衛施設事務所に照会して入手した資料から、プライベートハウスが長井町内の長井ハイツに五棟、稲岡町内の海軍基地に四棟あり、その構造はプレハブ造りであること、その建坪などの概要がつかめたものの、右資料からは、右家屋についてのその他の状況や、その所有者等の所有権利関係までは判明しなかつた。右調査依頼をした企画部の話や、さらに税務部職員を横須賀防衛施設事務所に派遣し、事情を聴取したところによれば、個人が米軍の許可を得て建設した個人所有のものらしく、米軍が所有しているものではないということであつた。また、自治省に対しても職員を派遣したり、電話照会をしたりして、固定資産税を課税しうるかいなかについて照会したところ、個人所有であれば課税しても差し支えないとのことであつた。しかしながら、米軍の見解は、本件家屋についてはいろいろ軍の制約があり個人の所有とはいえないというものであることが企画部を通して伝えられ、また、当時日米合同委員会において協議中であることが判明した。こうした状況下で、税務部としては、個人所有であるならば当然課税すべきものであると考えてはいたが、課税客体が基地の中にあることからなかなかその調査ができず、所有関係の把握ができない実情にあつた。なお、当時も九棟のプライベートハウスについて、市職員による直接的な検分はできていなかつたものの、長井住宅地区の五棟については、前記入手資料にある建坪などと対照して、問題とされているプライベートハウスと思われる建物を区域外の山の手から遠望して確認していた。そして税務部職員がそのおよその評価額を推計して、右九棟の家屋に課税した場合のおよその課税総額を一八万円と試算した。

(三)  その後、税務部内においてこの問題が協議され、課税権を行使するためには、とにかく九棟の家屋の所有権の確認をし、課税客体である各家屋を実地調査する必要があるということで、立入調査の依頼をすることになり、税務部としては、九棟の家屋が個人所有であるとの考えのもとに、この問題が日米合同委員会において協議中であつた昭和四九年六月二八日付で被告は米海軍横須賀基地司令官H・T・デイートリツク大佐に対し、「横須賀米海軍基地及び長井住宅地区に存在するある種の住宅の調査について(要請)」と題する依頼文書をもつて、「私たちは、横須賀の米海軍基地及び長井住宅地区の中に、米海軍軍人及び軍属によつて個人的に所有されているところの数戸の住宅が現在あると理解しております。このことに関し、行政上の必要から、その海軍基地及び長井住宅地区において、それらの住宅の構造、所有権等について市職員が調査することを貴下が御承認くださるよう」にとの依頼をした。これに対し、同司令官は、同年七月一五日付の被告宛書面により、「米海軍基地と長井軍住宅地区の或る住宅に関する調査についての貴信については、確かに合衆国軍人軍属が個人的に所有するいくつかの住宅があるとお答えいたします。しかし、残念ながら私は、市吏員による調査に許可を与えることはできません。あなたの御要求は然るべき方法で施設分科会になされるべきであります。」と、被告の立入調査依頼を拒絶した。

(四)  税務部としては、司令官の返事が「個人的に所有するいくつかの住宅がある」というものであり、何とかこれに課税しなければならないと考えたものの、基地司令官から立入調査を断わられたため、独自の調査によることは不可能と考え、その後、神奈川県や自治省に対し、これまでの調査状況を報告のうえ、最終的見解を出すよう求めたり、日米両国政府間で話し合つてもらいたい旨国の担当機関に要請してきた。

(五)  その間にあつて、昭和四九年一〇月三一日、原告らは、本件につき横須賀市監査委員に対し、怠る事実について被告に是正勧告をするよう地方自治法二四二条一項に基づく監査請求をし、これを受けて、監査委員は、その調査のため、アメリカ合衆国海軍横須賀基地司令官に対し立入許可を求めたところ、同司令官から、本件家屋は課税対象にならないとの理由でその立入を拒否された。また、横須賀市代表監査委員は、自治省に対し、同年一二月一〇日付横監第五六号をもつて四〇年回答について照会したところ、自治省税務局固定資産税課長は、神奈川県総務部長宛昭和四九年一二月一二日付自治固第一三一号「行政実例の行政指導上の意義及び効果について(回答)」と題する書面により、米軍基地内に所在するいわゆるトレーラーハウスに対する固定資産税の課税については、地位協定上疑義が生じたため、日米合同委員会で協議中であるので、四〇年回答の行政実例は現在のところその効力を停止しているものとして取り扱われたい旨回答してきた。右のような経緯のもとで、横須賀市監査委員は、同年同月二五日、原告らの監査請求に対して勧告を行なわない旨の監査決定をなした(この点については当事者間に争いがない。)。

(六)  本件訴が提起されてから後、日米合同委員会において、いわゆるトレーラーハウスに対しては課税しない旨の合意がなされた。これを受けて、自治省税務局長は、神奈川県総務部長に対し、昭和五〇年三月三一日付自治固第二七号「米軍基地内に所在するいわゆるトレーラーハウスに対する固定資産税及び都市計画税の取扱いについて(通知)」と題する書面により、「標記の件については、かねてから日本合同委員会において協議中であつたところ、このほど課税することができない旨合意されたので、米軍基地内に所在するいわゆるトレーラーハウスに対しては、固定資産税及び都市計画税を課税しないこととするよう管下関係市町村に連絡のうえご指導願いたい。なお四〇年回答は廃止する。」旨通知した。また、右通知にあわせて、自治省税務局固定資産税課長は、神奈川県総務部長宛昭和五〇年四月二日付書面により、右非課税措置に伴い、昭和五〇年度から交付要綱二条二号に規定する米軍資産として同四条一号による配分する額の算定基礎に加えることになるので、この旨管下関係市町村に連絡するよう依頼した。そして、右各通知は、神奈川県総務部長から被告に対し、同年四月二二日通知された。

(七)  ところで、前記のとおり、被告ないし横須賀市税務部では、従来本件家屋が個人所有のものであるとの理解のもとに、本件課税問題に対処していたが、市監査委員の立入許可要請に対し、基地司令官が本件家屋は課税対象とならないとの理由でこれを拒否したことから、被告は本訴における答弁として、当初、本件家屋の所有形態として「個人所有とも考えられる」すなわち、「アメリカ合衆国海軍の所有」と考えうる余地もあるとしてきた。

ところが、昭和五〇年七月一六日の本訴第四回口頭弁論期日において、原告らが甲第一号証の一として提出した前記昭和四九年七月一五日付の基地司令官の「個人的に所有するいくつかの住宅がある」との書簡の「個人的」の解釈について、通常の「個人所有」と解してよいのか、それともある条件が付されている「個人的」であるのか、或いはそれ以外のものであるのか、その解釈に疑義があるとして、被告は、米海軍横須賀基地司令官に対し、同年七月二三日付で照会したところ、同司令官から同年八月三日付被告宛書簡により、「個人的という言葉は、絶対的な所有を表わす一般的な意味で使用されてはおりません。これらの住宅の占有は、米軍の軍人軍属に限られており、これら住宅の占有、譲渡、取扱い及び最終的な処分の条件は米国政府によつて規制されて管理されております。本件は一九七五年のはじめに合同委員会の財務分科委員会において検討されました。その報告書は、『基地内のいわゆるトレーラータイプの住宅はこれらの住宅が地位協定一三条一項の規定に基づき在日合衆国軍隊により保有されている財産とみなされる理由をもつて地位協定により日本の租税が課されない。』と結論しております。」との内容の回答があり、被告は、右司令官からの回答内容に照らし、爾後本件家屋の所有形態は、個人所有ではなく米国軍隊が所有しているものと判断するに至つた。

(八)  なお、昭和五二年八月現在、長井住宅地区には、いずれも白色系の塗装の施された平家建で、「PH200」ないし「PH204」の符号を表示した五棟の家屋が存在し、そのうち「PH201」の家屋にはウオーリー・ワキダ(Wally・Wakida)の表示がなされている。

2  右のとおり、被告ないし税務部は、本件家屋の所有形態について、当初企画部を通じての横須賀防衛施設事務所の、本件家屋は個人が軍の許可を得て建築したものであるという情報から、一応個人所有であり、課税すべきものであるとの見解のもとに調査を進めていたが、その後、基地司令官から海軍基地及び長井住宅地区への立入調査を拒否され、本件家屋を実地に直接検分したり、その占有者、居住者等から事情を聴取して、その所有者が何人であるかを把握することができず、従つて、本件家屋の所有関係、家屋の種類、構造等家屋補充課税台帳に登録すべき事項を知り得ない状況にあつた。

なお、市町村の徴税吏員等が本件家屋について固定資産税の賦課徴収に関する調査のため、地方税法三五三条に基づいて質問調査をするには、アメリカ合衆国軍隊が使用を許された施設及び区域内に立入ることが必要不可欠であるが、地位協定三条一項によれば「合衆国は、右施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。」旨規定されており、合衆国軍隊に広汎な施設及び区域の使用、監察、管理の権限が認められているのであるから、合衆国軍隊の権限ある者の同意を必要とし、その同意なしに施設及び区域内に立入ることは許されないものと解されるところ、右のとおり被告が横須賀市稲岡町内及び長井町内のアメリカ合衆国海軍施設への立入調査の承認を求めたのに対し、右施設管理者たる基地司令官がこれを拒否したのであるから、被告ないし税務部職員による本件家屋についての実地調査ができないでいることは、法的にやむを得ないものということができる。

そして、その後現在まで右情勢に変化はみられないものの、昭和五〇年三月ころ、日米合同委員会においていいわゆるトレーラーハウスに対しては課税しない旨の合意がなされ、さらに、前示同年八月三日付基地司令官の回答内容により、被告ないし税務部は、本件家屋が地位協定一三条一項に規定する合衆国軍隊の保有する財産で、特例法三条に規定する合衆国軍隊が所有する固定資産として非課税にあたるものと判断するに至つたものである。

ところで、右1で認定した事実によれば、本件家屋は、米軍の軍人軍属が軍の許可を得て建てたものと推認されるが、右家屋についての占有は米軍の軍人軍属に限られ、これらの家屋の占有、譲渡、取扱い及び最終的な処分の条件が米国政府によつて規制され管理されていることが認められ、右米国政府による条件や規制、管理の内容は明らかにされてはいないものの、本件家屋に対する課税問題について、日米合同委員会において日米両国政府は、いわゆるトレーラータイプの住宅(合意内容としては、本件家屋もこれに含まれる趣旨と推認される。)に対しては固定資産税及び都市計画税を課税しない旨合意し、その理由とするところが地位協定一三条一項の規定に基づき合衆国軍隊により保有されている財産とみなされるというにあることによれば、その規制、管理の実体が合衆国軍隊によつて保有しているとみうる程度のものであることが一応推認されるところである。

しかして、本件家屋の所有関係について本件証拠資料により認めうる事実は、以上のとおりであつて、他に九棟ある本件家屋の具体的な所有関係を明らかにする証拠はない。また、日本合同委員会において課税しない旨合意された際の議事録等の資料は、被告において神奈川県を通じて外務省にその入手方の折衝をしたり、当裁判所から外務省に対し文書送付嘱託をしたりしたが、日米合同委員会における議事録等関係文書は、日米両国政府間において公表しないこととされているとの理由でいずれも入手できなかつたことが、成立に争いのない乙第四号証及び原告らの申立により当裁判所が外務省アメリカ局に対してなした日米合同委員会議事録の送付嘱託に対する同省アメリカ局長からの昭和五一年八月三日付回答により明らかである。

本件証拠資料によつて認め得る事実関係は以上のとおりであるところ、右認定の諸事実のみでは、いまだ本件家屋が固定資産税の賦課の対象となるべき「個人所有のもの」であるとは認め難い。従つて、被告において本件家屋が固定資産税賦課の対象となるべき個人所有のものであるとは断じ難いとの判断のもとに本件課税問題に対処したことも相当であつて、これをもつて、公金の賦課徴収を怠つたものとすることはできない。

また、右認定の諸事実によれば被告ないし税務部において、本件家屋が合衆国軍隊の所有するものに該ると判断するに至つたことも、あながち事実の認定を誤つたものとは認め難いから、被告が本件家屋に対し固定資産税の賦課徴収をしていないことをもつて違法に公金の賦課徴収を怠つているということはできない。

3  また、仮に、原告ら主張のとおり、本件家屋が米軍軍人軍属の個人所有のものであるとしても、被告が本件家屋について地方税法三八一条四項に定める事項を家屋補充課税台帳に登録せず、本件家屋について固定資産税を賦課徴収していないのは、前記認定のとおり、もともと被告ないし税務部職員において、その職務権限を適正に行使したにもかかわらず、米海軍基地及び長井住宅地区内の立入調査を基地司令官に拒否され、本件家屋の所有関係、その構造等家屋補充課税台帳に登録すべき事項すなわち課税要件事実を知り得ない状況にあることによるものであるから、被告が本件家屋に対し固定資産税の賦課徴収をしていないことをもつて違法に公金の賦課徴収を怠る事実があるということはできない。

なお、原告らは日米合同委員会の合意の効力に関し縷説するが、被告が本件家屋につき固定資産税を賦課徴収しない事由は、右のとおり課税要件事実を知り得ないからであつて、日米合同委員会の非課税合意に条約上の義務履行として法的に拘束されるために課税しないというものではないのであるから、原告らの所論はその前提を欠くもので、判断の要をみない。

4  さらに、原告らは、「被告は、地方税法上の質問調査権に基づき防衛施設庁ないし自治省など関係官庁に対し調査すべきであるのにいまだ調査をしていないから違法に公金の賦課徴収を怠ることに該る。」旨主張する。

しかしながら、本訴提起後において、原告らの申立により当裁判所が横須賀防衛施設事務所長に対し「アメリカ合衆国が海軍施設として占有する横須賀市稲岡町及び住宅施設として占有する同市長井町内の土地に計九棟存在する、いわゆる個人所有の建物に関する調査記録」の文書送付嘱託をしたところ、同事務所長から昭和五二年一月八日付で「当庁には調査記録がない。」旨の回答があつたこと、また、原告らの申立てにより当裁判所が同事務所長に対し、本件家屋の構造、居住者、その家族、建築の手続、処分の際の条件等一八項目にわたる詳細な事項について調査嘱託をしたところ、同事務所長から昭和五二年四月八日付で「嘱託のあつた本件については、防衛施設庁の回答できる事項はなく、米軍に照会すべき事実又は他省庁の権限に属する事項と思われる。」旨の回答があつたこと、さらに、原告らの申立てにより当裁判所が横浜防衛施設局に対し「アメリカ合衆国が海軍施設として占有する横須賀市稲岡町内及び同市長井町内に存在する昭和五〇年度から米軍資産(通称ドル資産)に編入された建物台帳」の文書送付嘱託をしたところ、同施設局長から昭和五三年八月一一日付で「当局の所管する事項ではなく、当局は自治省の所管する施設等所在市町村調整交付金の交付額の算定資料とするため、同省の依頼に基づき米軍資料により同省へ通報している。」旨の回答があつたこと、そこでさらに、原告らの申立てにより当裁判所が自治省税務局に対し右「米軍資産に編入された建物台帳」の文書送付嘱託をしたところ、同省税務局長から昭和五三年一一月二九日付で「市町村に所在する米軍資産の価格等については当省では施設等所在市町村調整交付金の配分に必要な資料として防衛施設庁に調査を依頼しその調査結果の報告を受けておりますが、当省から外部に公表することは、今後の資料入手等調整交付金配分事務上の困難を招くものと思料されるところであり、嘱託の趣旨には添い得ませんので御了承願います。」との回答があつたことは、いずれも記録上明らかであり、また前記認定のとおり、被告ないし税務部は、企画部を通じ又は職員を派遣して横須賀防衛施設事務所に対し調査依頼をし、資料の入手等必要と認められる調査を行なつていることが認められる。

そうすると、被告は、自治省に対し、米軍資産に編入された建物台帳の調査をしていないとはいえ、右のとおり、同省が裁判所の送付嘱託に対しても「資料を外部に公表することは今後の資料入手等の困難を招く」ことを理由に応じないことからすれば、被告の調査に対して資料の開示をしないであろうことは推測に難くなく、被告が右と同様の理由により右調査をしていないことをもつて調査不十分ということはできないし、また、本件全証拠によるも、被告が本件家屋に固定資産税を賦課するのに必要な事項を知りうる調査として、当然なすべきであるのにいまだしていないという調査手段が他に存在することを認めるに足りる証拠もない。

従つて、原告らの右主張は採用できない。

五  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は理由がないのでこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川正澄 三宅純一 桐ケ谷敬三)

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